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体外診断用医薬品原料用オリゴに求められる品質とは?

第4回 コンタミネーション対策

今回は、弊社におけるコンタミネーション対策についてご紹介します。

本連載は、冒頭のコンタミネーションのシミュレーションから始まりました。このシミュレーションでは診断薬メーカーがコンタミネーションを発見したので、市場には出回らず診断には使用されませんでした。もし、コンタミネーションが生じた診断薬が何かの手違いで市場に出回ってしまっていたら・・・。

弊社ではコンタミネーションを「体外診断用医薬品としての正常機能の阻害を引き起こしうる物質の混入」と定義づけしています。体外診断用医薬品としての正常機能を阻害することは、誤った診断結果が提示されることとなります。これは誤診や不適切な治療につながり、最悪の場合患者の生命を脅かしかねません。したがって、弊社では、体外診断用医薬品原料オリゴヌクレオチドの製造で生じるコンタミネーションには最大限の注意を払っています。

弊社では、コンタミネーション対策に取り組むにあたって、ネガティブコントロールサンプルに対して陽性を示す「偽陽性コンタミネーション」とポジティブコントロールサンプルに対して陰性を示す「偽陰性コンタミネーション」に大別しています。コンタミネーションの種類によって対策も変わってきます。それぞれのコンタミネーションを引き起こす原因と、その原因を解消するために「リライアブル&トレーサブルオリゴ」に施した対策を説明します。


<偽陽性コンタミネーション>

偽陽性コンタミネーションの主な原因は、遺伝子増幅(PCR、LAMP)の対象遺伝子と配列が同じ、もしくは似ている配列のオリゴヌクレオチドが混入することです。
現状、意図しない微量なオリゴヌクレオチドの混入を社内の品質管理レベルで検出することは困難ですので、通常の製造環境において常にコンタミネーションが生じている可能性を否定できません。それにもかかわらず、ほとんどのお客様がコンタミネーションに気づかずにオリゴヌクレオチドを問題なく使用できています。なぜなら、様々な多数の遺伝子増幅系において、混入したオリゴヌクレオチドが鋳型として機能してしまう確率は非常に低いからです。したがって、購入したオリゴヌクレオチドで生じるコンタミネーションを実際に経験したお客様はほとんどおらず、それゆえに表面化せず問題視されにくいのでしょう。偽陽性コンタミネーションは、食品へのアレルゲンのコンタミネーションをイメージしていただけると理解しやすいと思います。あるアレルゲンが混入した食品を摂取した場合に、アレルギーのない人は問題ありませんが、アレルギーのある人は発症し、生命の危険にまで及ぶこともあります。食品のアレルゲンに関しては食品表示法によって表示の義務対象物質や推奨対象物質が定められており、購入者がアレルゲンを回避することが可能ですが、オリゴヌクレオチドではそのような表示はなく、お客様自身がコンタミネーションを回避するための手段はありません。
上記のことをふまえると、対策の方向性は「混入リスクをなるべく低減させた製造システムの構築」となります。

原因①「同時製造中のオリゴヌクレオチド」

製造所内では、様々なお客様からの多種多様なオリゴヌクレオチドが並行作業で製造されています。開放系で実施される製造工程もありますので、同時に製造している別のオリゴヌクレオチドが製造環境中に飛散して混入してしまう可能性があります。

→ 対策①-1「物理的隔離」

使用用途に合わせて製造場所を分けることとし、リライアブル&トレーサブルオリゴのみを製造する専用ルームを設置しました。その結果、その他の種類のオリゴヌクレオチドから物理的に隔離することができました。さらに、リライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームは陽圧となっており、室外からのオリゴヌクレオチドを含むチリやホコリの侵入を抑止しています。

→ 対策①-2「キャリーオーバー防止」

オリゴヌクレオチドの精製に使用されるHPLCでは、ラインやカラムに残存したオリゴヌクレオチドが次に精製されるオリゴヌクレオチドにキャリーオーバーしてしまう可能性があります。リライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームに設置されたHPLCは十分に洗浄されています。さらにコンタミネーションに気を使われるお客様については、専用HPLC用カラムをご用意いたします。
マイクロピペットを用いて試薬等を取り扱う際には、エアロゾルのキャリーオーバーを防ぐためにフィルター付きチップを使用しています。

→ 対策①-3「製造の制限」

リライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームでのオリゴヌクレオチドは、原則として注文ごとに製造されます。複数のお客様のオリゴヌクレオチドを同時製造することはありません。

原因② 作業員由来の細胞・組織・体液

作業中に落下する作業員の細胞・組織および体液が検出対象となる標的遺伝子を含んでいる可能性があります。作業員の体調が不良の場合には、細菌・ウイルスの核酸が混入する可能性があります。

→ 対策②-1「健康状態の把握」

作業員がリライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームに入る前に、健康状態チェック表に自分の健康状態を記録します。体調不良の場合には、リライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームでの作業は許可されません。    

→ 対策②-2「作業時の衣服」

作業員がリライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームに入る際には、専用の衣服に着替え、マスク・帽子・手袋を着用しています。

→ 対策②-3「クリーン環境での作業」

リライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームには、ISO Class4のクリーンベンチが設置されています。溶媒への溶解、製品の小分け分注といった作業はクリーンベンチ内で行われます。

原因③ 資材・器具

資材・器具に検出対象となる標的遺伝子が混入している可能性があります。

→ 対策③-1「適切なグレードの資材・器具の使用」

リライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームで使用する資材・器具は、可能な限りDNAフリーの資材・器具を使用するようにしています。


<偽陰性コンタミネーションの原因>

偽陰性コンタミネーションの主な原因は、核酸分解酵素が混入することです。混入した核酸分解酵素がプライマー・プローブとして機能するオリゴヌクレオチドや増幅された対象遺伝子DNAを分解してしまい、対象遺伝子DNAの増幅を阻害してしまうことになります。

原因④ 作業員由来の細胞・組織・体液

作業中に落下する作業員の細胞・組織および体液が核酸分解酵素(DNase)を含んでいる可能性があります。

→ 対策④-1「作業時の衣服」

(対策②-2と同様)作業員がリライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームに入る際には、専用の衣服に着替え、マスク・帽子・手袋を着用しています。

→ 対策④-2「クリーン環境での作業」

(対策②-3と同様)リライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームには、ISO Class4のクリーンベンチが設置されています。溶媒への溶解、製品の小分け分注といった作業はクリーンベンチ内で行われます。

原因⑤ 資材・器具

原料・資材に核酸分解酵素が混入している可能性があります。

→ 対策⑤-1「適切なグレードの資材・器具の使用」

リライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームで使用する資材・器具は、可能な限り核酸分解酵素フリーの資材・器具を使用するようにしています。


上記の対策は、ISO13485:2016に従って作成された規定・作業要領書によって管理されています。
作業環境に関する規定、設備に関する規定、リライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームの使用に関する作業要領書などで様々なルールや基準が定められています。その他にも、教育訓練に関する規定に従って、リライアブル&トレーサブルオリゴ専用製造ルームに入って作業できる作業員の教育訓練を実施して社内資格を認定しています。

説明できる範囲でざっと書き出しただけでもこれほどの文章量となってしまいました。弊社がコンタミネーション対策にかける意気込みをご理解いただけたのではないでしょうか。コンタミネーションは弊社が最も避けなければいけない「リスク」です。弊社では、コンタミネーションが生じるリスクの分析・評価・コントロール・検証、いわゆる「リスクマネジメント」を積み重ねて、現在のコンタミネーション対策にたどりつきました。「リスクマネジメント」はISO13485:2016が文書化を要求する事項の1つですが、ISO13485:2016全体にわたってリスクマネジメント的アプローチが求められています。

次回の記事では、弊社における「リスクマネジメント」の運用を紹介いたします。

<第5回へ続く>

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